大きくなりすぎて非効率になった福祉国家にかわり、介護や保育に民間の力を積極的に導入しつつあるが、それですべてうまくいくのか。国であると標榜するIS(「イスラム国」)を国際社会が主権国家として認めないのはなぜか。様々な局面で「国家」という存在にあらためて注目が集まる時代である。
国家って何だろう。そういう疑問をもつ学生に特にお勧めしたいのが本書である。とりわけ魅力的なのは、国家を国内から捉えるベクトルと他国との関係から捉えるベクトルが巧みに融合している点である。国家がどうやって成立し、どういう問題を抱え、今後どうなっていくのか。政治学の細かな専門分野の垣根を取り払い、この難問を考えるための貴重なヒントがちりばめられている。
本書のもう一つの特徴は、政治という現象を論じる際に用いる「言葉」に注目し、しかも、一つの言葉を論じるのではなく、言葉を必ず対にした点にある。卓抜な工夫である。「自由と権力」「政策と市場」「戦争と平和」のように相反する(ようにみえる)概念を組み合わせた場合、議論はダイナミックになる。「国家と国民」「情報と世論」「政治参加と政治文化」「公共と市民」は珍しい組み合わせも含むが、いずれも一連なりに論じることで理解が格段に深まった。「政党と圧力団体」「政府と行政」「国際社会と国際組織」は、似たところもあるが、やっぱり違う、という対で、緻密な分析は執筆者の腕の見せ所となっている
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