『ICU21世紀COEシリーズ』全10巻+補冊2巻
A5判上製(補冊のみ並製)
予定本体価格:2000円前後
2008年4月完結予定。
国際基督教大学(ICU)が《平和・安全・共生》をテーマに、文部科学省の21世紀COEの拠点として長期にわたって取り組んできた、研究・教育の成果を世に問う。
*企画趣旨(編者)
*既刊の巻
*以後続巻

「ICU21世紀COEシリーズ」刊行にあたって
 

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9・11事件、アフガン戦争、イラク戦争を経て、21世紀初頭の世界は、「戦争と革命の世紀」であった20世紀の繰り返しであるかのような様相を呈し始めている。今日、戦争と平和の問題はますます複雑化の一途を辿っているようにみえる。こうした時代にあって「広域平和研究」は、その理論的および実践的必要性をさらに増し加えており、学術的にも政策的にも不可欠な課題となってきたことは自明であろう。複雑化した戦争と平和の問題は、学際的および多分野的アプローチによる分析と考察によってのみ十分な解明が可能となるであろう。
国際基督教大学(ICU)は、2003年から2008年3月までの5年間、文部科学省の21世紀COEの拠点大学(学際・複合・新領域)として採択を受けた。その主題は「『平和・安全・共生』研究教育の形成と展開」というもので、常時、15〜21名程の事業推進担当者および30〜40名程の研究協力者を得て、大学院を中心としてその研究教育の課題を担ってきた。このCOEプログラムは大きく三つのプロジェクトに分かれている。それらは以下の通りである。プロジェクト1「平和・人権・ガヴァナンス」、プロジェクト2「安全・環境・サスティナビリティ」、プロジェクト3「共生・教育・ジェンダー」。われわれはこの学際的かつ多分野的アプローチを「広域平和研究」(comprehensive peace studies)と名づけた。

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本COEプログラムの最終段階にあたる2006年後半から2008年にむけて、英語と日本語とによって25冊程(論文を除き著作だけをとってみても)の研究成果が刊行される予定である。そのなかでも特筆すべきは、風行社のご協力とご厚意を頂戴して、「ICU 21世紀COEシリーズ」(全9巻の予定)が出版されることになったことである。このことを心から感謝している。これらの著作のテーマはそれぞれ、前述のプロジェクトのどれか一つに帰属している。すなわち、平和のグランドセオリーの模索、近代化と寛容、心の安全空間の生成、共生型の教育と社会、共生型マネジメントの探求、分権・共生社会における森林政策、アジアにおけるジェンダー、東アジアにおける日本の戦争責任と平和構築、現代の平和運動と平和主義、と多様である。

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これら一連の著作は、本COEプログラムが当初かかげた二重の課題のいずれか、つまり、(1)平和のグランドセオリーの模索、あるいは(2)「平和・安全・共生」にかかわる具体的政策の提言、と取り組んでいる。21世紀初頭の日本と東アジアと世界にあって、少しなりとも和解と平和をもたらすのに資するという喫緊の課題に、僅かでも学術的に寄与することができれば、私どもにとって望外の喜びである。

国際基督教大学COEプログラム
拠点リーダー  村上陽一郎

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*既刊の巻

◇第1巻『平和のグランドセオリー 序説』(植田隆子・町野朔編)
 平和・安全・共生の密接な関わりを基本視座として、さまざまな視点から掘り下げるシリーズの第1巻。「寛容を巡って」(村上陽一郎)、「グランドセオリー序説:平和のミニ・セオリー」(ヨハン・ガルトゥング)、「平和の思想について:グランドセオリー構築との関連で」(千葉 眞)、「平和と共生を求めて:歴史から観る真珠湾と広島の和解」(川村のり子)、「ドイツにおける移民統合政策と多文化主義:再分配と承認の相克」(木部尚志)、「EUの経験からの理論的な貢献:欧州、多国間主義、平和構築」(マリオ・テロ)、「平和、安全と共生を求めて:混迷する国からの教訓」(テマリオ・C・リベラ)、「共生の社会は可能か?:私たちの試みと希望」(保岡孝顯)。

◇第2巻『近代化と寛容』(村上陽一郎編)
 個人や社会が異質な他者との出会いのなかで自己変革するための契機として構想される「機能的寛容」を軸に、多方面から論ずる。西谷修「他者の心臓とともに生きる」、樫村愛子「社会学と精神分析モデルから見た『機能的寛容』」、石原明子「紛争解決と寛容」ほか。

◇第3巻『ニューサイコセラピィ:グローバル社会における安全空間の創成』(小谷英文編)
 一人ひとりが『心的安全空間』を持つことが個人の幸福のみならず、共生や平和構築につながるという確信の下、『心的安全空間』を確保する装置としての「サイコセラピィ(心理療法)」の21世紀的飛躍を目指す。

◇第5巻『共生型マネジメントのために:環境影響評価係数JEPIXの開発』(宮崎修行編)
 一企業活動が環境に与える影響を、定量的・総合的に把える画期的システムJEPIX。「JEPIXにもとづく環境負荷統合化シート」「環境報告書・CSR報告書におけるJEPIXの利用」ほか。

◇第6巻『分権・共生社会の森林ガバナンス:地産地消のすすめ』(西尾隆編)
 日本の木材自給率は食料自給率の半分(約20%)。森林は多いのに林業が経済的に成り立たず、間伐もされず森林が荒廃している。環境保全の役割も十分果たせていない。本書は、分権・共生の理念に基づく地産地消林業による問題解決を提唱する。

◇第7巻『アジアから視(み)るジェンダー』(田中かず子編)
 ジェンダー研究にもある欧米中心主義を乗り越えるべく、アジア人がアジアの視点を大切にしながら、さまざまなジェンダー問題を考察。「ジェンダー、貧困、フィリピン経済:変化の潮流と展望」(C・ソブリチア)、「ジェンダーと人間の安全保障:アジアから」(秋林こずえ)、「性とセクシュアリティの表象:母への鎮魂歌」(イ・ヒャンジン)、「日本の美術界とジェンダー」(北原恵)ほか。

◇第8巻『日本の植民地支配の実態と過去の清算──東アジアの平和と共生に向けて』(笹川紀勝・金勝一・内藤光博編)
 日本・韓国・台湾等の研究者による国際共同研究の成果。三・一独立運動を軸に植民地法制・判例等を実証的に分析するほか、日本の植民地支配が被植民国に与えた文化面への影響をも事実に即して分析。他方、反植民地・抗日運動を支えた「抵抗の思想」の本質を探求。さらに、戦後補償や東アジア共同体について考える中で「真の和解」への道を探る。

◇第9巻『平和運動と平和主義の現在』(千葉眞編)
 当初の期待と予想に反してなおも戦争とテロの絶えない21世紀初頭の時点に立って、平和運動と平和主義のあり方を顧みるとともに、その進むべき道を探る。「『9・11後』の世界おける平和問題」(坂本義和)、「テロの時代と国家テロリズムをめぐる考察」(R・フォーク)、「カントと反戦・平和主義:9・11後の国際政治思想」(北村治)、「外交政策のプラグマティズムと平和運動のモラリズム」(J・ガルトゥング)ほか。

◇第10巻『平和と和解のグランドデザイン─東アジアにおける共生を求めて』(村上陽一郎・千葉眞編)
 「芸術の起源と機能的寛容」(村上陽一郎)、「平和研究と平和の政治─南北紛争状況における多文化的な共通安全保障」(武者小路公秀)、「消極的平和と積極的平和のグランドセオリーに向けて─平和・安全・共生」(ヨハン・ガルトゥング)、「戦争の悲哀─その地図作成に向けて」(フィリップ・ウェスト)、「「共生」と「和解」に向けて─「ゆるしの作法」の比較宗教的考察」(森本あんり)ほか。

◇補冊1『A Memoir of the Atomic Bombing 原爆の記』(指田吾一著)
 原爆投下直後の広島で、自ら被爆しながら医師として治療に当たった著者が、その苛烈な経験を綴った手記。著者は旧田無市初代市長。一九六九年刊行(二〇〇七年復刊)の書を英訳し、日英両語版として刊行。国際基督教大学発行/風行社発売

◇補冊2『「平和・安全・共生」の理論と政策提言に向けて』(ヴィルヘルム・フォッセ/下川雅嗣編)
 「トランスナショナルな平和文化と平和運動」(T・V・リード)、「ピケテロ運動と人間の安全保障──アルゼンチンの「ケース」」(ホアン・アイダル)、「「共生」と創造的破壊」(グレゴリー・フックス)、「平和構築の理論と現実」(高橋一生)など8論文を収載。

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*以後続巻(刊行日未定。タイトルは仮題)

◇第4巻 藤田英典編『共生の教育と社会──構成原理と実践課題』
 
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